ツキネコカフェ様「適正飼育の徹底とシステム作りを」|推し猫グランプリ上位入賞者インタビュー

『推し猫グランプリ2020』猫カフェ部門で見事グランプリを受賞された「ツキネコカフェ」さん。

NPO法人 猫と人を繋ぐツキネコ北海道として保護猫活動に取り組まれており、社会全体のシステム作りに向けて多くの取り組みに尽力されています。

そんな保護猫活動への想いや現状、新型コロナウイルスの影響、同じ保護猫活動に取り組む方に伝えたいコトなどについて、盛りだくさんなお話を伺いました!

◎ツキネコ北海道とは?基本情報・略歴

・NPO法人 猫と人を繋ぐツキネコ北海道
・代表理事 吉井美穂子さん
・2010年に札幌市初の試みとして「保護活動をしながらの猫カフェ」をオープン
・2012年にNPO法人として認可を受ける
・年間の保護猫数は約400匹 ボランティアさんの登録者数200人以上
・公式YouTubeチャンネルは登録者数6600人以上(2020年7月時点)

今回は代表理事である吉井さんと、ツキネコカフェオープンスタッフである滝澤さんにお話をお伺いしました!

 

◎推し猫グランプリ受賞について

Q.『推し猫グランプリ2020』グランプリ受賞おめでとうございます! 受賞を知った時のお気持ちや周囲の方の反応はいかがでしたか?

 

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吉井代表:皆さんからの推薦で知ったんですが、気付いたらあれよあれよという間に応援いただいて。私の性格上、「やるなら一番」が良かったので(笑)グランプリをいただけて本当に嬉しかったです!

ご支援いただいた皆さんのおかげなので、感謝の気持ちでいっぱいですね。

 

Q.では、今回のグランプリは応援してくださった皆さまに押し上げてもらった感じなんですね!

吉井代表・滝澤さん:里親さんたちの応援がすごかったです!

吉井代表:ありがたいことに、大きなコミュニティの輪ができてきています。

年間で300匹ほど、これまでで3000匹くらい譲渡があるので。里親さんたちが集まる「里親の会」にも、今は1500人ほどの登録があるんです。そこで皆さんが盛り上がって、応援してくれました。

支援者さんもボランティアさんも、今いるスタッフも、ほとんどが里親さんで。本当に皆さんのおかげなので、ありがたいです。

 

◎ツキネコ×新型コロナウイルスの今:影響をプラスに変えて前向きに

Q.新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったのではないかと思います。現在のご活動状況はいかがでしょうか?

 

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吉井代表:そうですね、たしかに影響はありました。

以前はお店(ツキネコカフェ)にたくさんのお客さんが来てくださって、土日では100人くらい来店されていました。今はすべてを予約制に切り替えて、なるべく密にならないようにしています。

ただ、私たちにとっては新型コロナウイルスの影響は『逆にチャンス』でしたね!

Q.新型コロナの影響がプラスになったということでしょうか?

吉井代表:そうです。私は今まで、基本的に接客業をずっとやってきました。なので、お客さんへの接客を重視していたんです。ただ、接客を重視してしまっていた分、なかなかスタッフ同士の時間が取れていませんでした。

今回、お客様が入らない時間が増えた分、スタッフ同士でのミーティング時間がすごく増え、色んな話ができるようになりました。あとは、(YouTubeの)ライブ配信などのリモート関連に転換していったら、逆に今までよりもお客様との距離が近くなったんです。

Q.なるほど! スタッフ間や支援者の皆さんとのつながりがギュッと強くなったんですね!

吉井代表:はい。今までは、北海道内では「ツキネコ」の名前が浸透しつつあっても、全国区ではありませんでした。それが、YouTubeやSNS発信などに力を入れたことで、北海道外の支援者さんが増えました!

保護猫活動は、子猫たちの医療費や普段の生活などでとても費用がかかります。だからこそ、「ピンチはチャンスに」を胸に必死で活動しました。

結果、私たちにとっては、新型コロナの影響を良い方向へとつなげることができたかなと。不安も打撃もありましたが、本当に良かったです。

 

◎ツキネコ北海道として保護猫活動をはじめたきっかけ・熱意

Q.札幌市では初となる「保護猫カフェ・保護猫活動」をスタートされた、きっかけとなる出来事はありましたか?

▲画像引用:ツキネコ北海道公式ブログより

吉井代表:元々は札幌の中心地で美容室を経営していました。お店の周りはマンションが多く、お客さんから野良猫に関する相談を受けることが多かったんです。それで、もともと猫好きだったこともあって、「いいよ。私に任せといて!」という感じで(笑)自分にできることを調べ始めました。

結果、北海道に相談窓口がなく、本州の団体まで問い合わせなければならず。「なんでこんな都会なのに、窓口がないんだろう?」と疑問に思ったのが始まりです。

Q.なるほど。それで、ご自身で活動をスタートされたんですね!

吉井代表:お節介な性格だし、やるかやらないかでいうと「やるタイプ」なので(笑)

それで、ひとつひとつ問題を解決していくうちに段々と活動の幅が広がっていった感じです。ただ、その後に大きな案件にぶち当たりまして……。それが、初めて経験した「ゴミ屋敷+多頭飼育崩壊」案件でした。

Q.多頭飼育崩壊は、保護猫活動とは切っても切れない根深い問題ですね……。当時はご本人からのSOSがあったのですか?

吉井代表:いえ、実は当時、飼い主だった方が山菜を取りに行ったまま行方不明になってしまったんです。そのお宅には猫がいたので、「里親探しを手伝ってほしい」との依頼で足を運んでみたら、まさかのゴミ屋敷で……。

私も初めてで何をどうすればいいのか分からず、当時普及していたmixi(ミクシィ)を使って支援を募りました。すると、驚くほどあっという間に支援が集まって。とても衝撃を受けたのを覚えています。

Q.全国からのご支援があって、ゴミ屋敷案件を解決されたんですね!

吉井代表:はい。本当に、支援者の皆さんのおかげです。

「猫」のために全国からボランティアさんが駆けつけてくれましたし、海外からも支援物資が届きました。猫の保護に必要な医療費も、募金がすぐに集まって――。なんというか、そのパワーに驚きました。

その時の想いが、NPO法人になった今につながっています。

 

◎多頭飼育崩壊の現実と、みんなに伝えたいコト

Q.ツキネコ北海道の皆様が直面されている「多頭飼育崩壊」案件について、YouTubeチャンネルやブログを拝見しました。実際の現場の問題について、率直なご意見を伺えますか?

吉井代表:多頭飼育崩壊の現場は必ずと言っていいほどゴミ屋敷なんです。たった数匹の猫でも、糞尿を放っておくと臭いがひどいですよね? それが、数十匹ともなると、かなりひどい状況であることがイメージしてもらえると思います。

この問題は、まだまだ根が深いと感じています。

Q.現在4件の多頭飼育崩壊案件に取り組んでいるとお聞きしましたが……?

吉井代表・滝澤さん:実は、もっとあるんですよ?(笑)

滝澤さん:今年だけで10件は関わっています。それと、2年目3年目と持ち越している案件もあるので、15、16件くらいはありますね。

吉井代表:緊急性はなくなった案件を持ち越しながら、ずっと関わり続けている感じです。

Q.確かに、どこまで行けば解決なのか、区切りがつきにくい問題なんですね。

吉井代表:その通りです。なので、しっかりと解決を目指すためにも行政を巻き込んで動かなければならないと考え、社会全体のシステム作りを目指して取り組みをスタートしています。

具体的には、YouTubeに初めて公開した2件の多頭飼育案件が、札幌市・北海道と共同で取り組む初めての試みなんです。ただ、「公平性」を保つという面が大きな壁になっていて……。

今後起こり得るすべての案件に、私たちツキネコだけではもちろん対応できません。なかなか難しい部分ではありますが、実現に向かっていくために、横のつながりを大切にしています。保護猫団体だったり、ボランティアさんだったり、多くの人が共同で取り組めるのが理想ですね。

いずれにしても、今回の取り組みは、やっと階段をひとつ登ったというか、大きな一歩だと実感しています。

Q.YouTube上での動画の反響も大きいですね! 多くの人たちへの周知につながったと思いますが、反応はどうだったのでしょうか?

滝澤さん:実は、動画を出すことに対して抵抗がありました。

吉井代表:多頭飼育の動画を出すと、どうしても飼い主個人を弾圧するような心無いコメントが多く目に入ってしまいます。でも、一面だけを見て興味本位に騒ぎ立てるのは違うのでは?と感じていて。

周囲に「助けて」と声を上げられない人たちが苦しんでいるケースが多く、それを救いあげるシステムがない事そのものが問題だと思うんです。なので、ただ批判するだけじゃなくて、「こういう状況にならないためにはどうするべきか?」という点をいつも考えています。

 

◎寄付だけに頼らない!保護猫活動をソーシャルビジネスとして確立・成立させるために

Q.複数の案件に関わっていらっしゃいますが、保護活動にかかる費用面について、率直なご意見を教えてください。

▲画像引用:ツキネコ北海道公式ネットショップより

吉井代表:これまでで一番大きかった案件では、活動に180万円もの費用がかかりました。もちろん私たちの全額負担です。

自分たちで捻出しなければならない、となった時に「すべて寄付に頼ってしまっていいのか?」という考えが強くて。寄付頼みの状況があまり好きではなかったので、自分たちで稼ぎながら保護活動を継続できるような、ソーシャルビジネスを確立させている段階です。

しっかりとソーシャルビジネスとしても成立させて、それを保護活動費に充てていく流れを作り出したいんです。

Q.保護猫活動をスタートされた当初から、ソーシャルビジネスの視点を持って取り組まれてきたのですか?

吉井代表:いいえ、まったく。実は活動を始めた当初は、ボランティアさんからの寄付をお断りしていたんです。「いいよいいよ、そんなの気にしないで~」みたいな感じでやっていたら、大変な目に遭いました(笑)

そこから、周囲の支援者の方がアドバイスをしてくれて、NPO法人化することに決めました。本当に、一人では成し得なかったことで、スタッフやボランティアさん、支援者の皆さんのおかげだと実感しています。

Q.保護猫活動をソーシャルビジネスとして成立させるために、注意している点などはありますか?

吉井代表:保護猫活動に取り組まれている方は、どうしても「猫」が中心になってしまう方が多いんです。でも、中心は「人」だと私は思っています。

人の力、マンパワーがあるからこそ、猫が助けられるので。猫ばかりに目が行き過ぎて、人をないがしろにしてしまうと、厳しいかなと。だから、スタッフやボランティアさんとの向き合い方にはとても注力しています。

滝澤さん:その点でも、スタッフとの時間がたくさん取れた今回のコロナ期間は、プラスに作用していると感じています。

吉井代表:保護猫活動には、組織力が欠かせません。ボランティアさんや他の保護猫活動家の方、スタッフがひとつになって組織力が強まると、良い方向に動くと思うんです。

だから、「この人はちょっと苦手だから」とか「男性だから」とか「ご高齢だから」とか、そういった事で排除はしません。誰でもどうぞ、というスタンスを貫いています。

排除してしまうと、組織力って簡単に無くなってしまうと思うので。いかに人と向き合って、いかに組織力を強めていけるかが大切だと思っています。

 

◎ツキネコ発案「譲渡視野の預かり」「永年預かり制度」の魅力

Q.様々な取り組みにチャレンジされていますが、周囲の方から特に反響の大きい「譲渡視野の預かり」についてお聞かせください。

吉井代表:「譲渡視野の預かり」は、おそらく他の団体とは違う取り組みじゃないかと自負しています!

例えば、譲渡した猫ちゃんが猫風邪にかかった場合に、初めて猫を飼う方がいきなりケアをするのって、結構大変ですよね?なので、まずは「預かり」という立ち位置でお渡しして、困ったことがあれば一旦ツキネコにお返しいただくことができるんです。

いきなり「譲渡後はもうあなたの猫です」って線を引くのではなく、全面的にサポートをさせていただく形ですね。元気だったらそのまま譲渡、何かあればツキネコがケアをするっていう、一種の「ゆるみ」を持たせた状態で譲渡ができる仕組みになっています。

Q.サポートがあるというのは、猫を迎え入れるうえでとても頼もしいですね!

吉井代表:そうですね。何かあればいつでも相談ができるっていう安心感があるので、サポートが万全にできる今の体制は、すごく喜ばれています。

我ながら、いい取り組みを考えたなって(笑)

Q.ご高齢の方にも預かりをお願いできる「永年預かり制度」もツキネコ北海道の代名詞のような取り組みかと存じます。利用されている方の反応はいかがですか?

◆永年預かり制度とは◆
高齢や持病など様々な理由により飼育をあきらめてしまった方に、猫を「飼う」のではなく、しかるべき準備をしていただいたうえで、お世話が出来なくなるその時まで、猫を「預かる」という新しいシステムです。
通常の飼育と変わりなく、預かる期限は決まっていません。万が一、ご自身に何かあり飼育困難になった際は再度引き取りいたします。

引用:ツキネコ北海道公式ホームページ

吉井代表:きっかけはご高齢女性からの「レンタルできないか?」という問い合わせでした。その時は「レンタルなんてとんでもない!」と思ったんですが。「年だから断るってどうなんだろう?」とも感じて。

同じ年齢の方でも、すごくパワフルな方もいますよね。なのに、年齢だけを理由に断られてしまうのはちょっと違うかな?と思いました。

実際に、最初に問い合わせてくれた高齢女性に何匹か預かりをお願いしたら、とてもしっかりと見て下さいましたし。猫との触れ合いの中でご本人もどんどん元気になって、最終的に自分で野良猫を保護して飼われていました(笑)

なので、単純に年齢だけでお断りせずに、しっかりと相手の人となりを見極めることが大切だと思います。本当にいいシステムだと思うので、全国に広まってほしいですね!

Q.この制度も「排除せずに受け入れて、人と向き合う」という思いからスタートされているんですね。今まで、何名くらいの方が制度を利用されていますか?


吉井代表:だいたい150名くらいですね。年代も様々で、現在は80代の男性の方も利用されています。制度を利用してからカフェに来るのが楽しみになったみたいで、しょっちゅう来てくれて、ずーっとスタッフとしゃべってます(笑)

滝澤さん:爪切りに呼ばれたりもして、「今日も呼ばれたよ~」なんてスタッフで話ながら楽しく交流しています(笑)

吉井代表:高齢の方だと、どうしてもだんだんと孤独になってしまいがちですよね。そこで猫を介しながら、スタッフとの関わりそのものが楽しみになっているんだと思います。

 

◎活動を「発信」する大切さを実感

Q.SNSやYouTubeで発信されている猫ちゃんたちが、みんなとても良い表情をしていますね! 良い表情を引き出すコツはありますか?

 

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滝澤さん:実は、写真を撮るのがとっても上手なボランティアさんがいるんです。猫と遊ぶのが上手というか、飽きないというか。ずーっと遊んでいられるので、猫たちの表情が全然違いますよね。こんな顔するんだ!というくらい可愛らしい写真がたくさん撮れるんです。

その方からいただいた動画を編集してYouTueに公開したり、ツキネコの収益につなげるカレンダーにしたりしています。あとは、スマホは肌身離さずに持っておいて、「いい瞬間」がすぐに撮影できるように意識していますね。

Q.SNSの発信を通じて、変化したことはありますか?

吉井代表:私たちは今まで、忙しすぎて全然発信できていなかったんです。「こんなに頑張っているのになんで?」って思ったりもしたんですが、結局は発信していないからだったんですね。

なので、今は時間をできるだけ発信にも割くようにしています。

滝澤さん:YouTubeのライブ配信では特に、リアルタイムでのやりとりができるようになったので。通常のSNS発信よりも、皆さんとの心の距離が近くなりましたね。

Q.今後の発信の中心は、ブログとYouTubeの2本柱にされていくのでしょうか?

吉井代表:そうですね、SNSや最新のツールはもちろん、しっかりと「言葉」でも伝えたいと思っています。

最新のツールを利用して若い世代へ発信するのも大切ですが、ご高齢の方に向けても丁寧に発信していきたいので。だからこそ、活字での発信も大切にしたいんです。

 

吉井代表:やっぱり「適正飼育」の徹底を広めていきたい、というのが一番大きくて。これが浸透しない限り、保護猫問題には終わりがありません。

だから「適正飼育」をどんどん浸透させるために、行政だったり、影響力の大きい著名人の発信だったり、そういった部分に向けて活動できたらなと思っています。

 

◎ツキネコ北海道の皆さんからメッセージ

Q.最後に、保護猫活動家の方や読者の皆様へ向けて、メッセージをお願いいたします。

▲お話を伺った吉井代表(左)と滝澤さん(右)

吉井代表:「猫がかわいい!」だけではなく、「適正飼育」という言葉を私はずっと言い続けています。

猫を飼えば、お金も医療費もかかるし、時には思ったような行動をしないかもしれません。だから、動物を飼うということをもう一度考えてほしいです。猫はしつけができる生き物ではないので、人間側が寄り添ってあげることが大切だと思います。

動物や自然を大事にできないと、きっと人間が生きていけない世界になるのではないか?と危惧しています。そんな風になっていってしまうのは寂しいし、怖いので、近くにいる生き物たちに気持ちを向けるという点がとても大切かなと思います。

滝澤さん:やっぱり、猫と暮らすのは楽しいです。癒しにもなりますし。楽しさも感じながら、その中でも覚悟を持って、命と向き合ってほしいと思います。

 

Q.ちなみに『第2回推し猫グランプリ』にはご参加いただけますか?

吉井代表・滝澤さん:いいんですか?笑 ぜひお願いいたします!

 

◎まとめ

お二人の朗らかで話しやすい優しい人柄の奥に、保護猫活動への力強い想いがひしひしと伝わってきました。

新型コロナウイルスの影響さえもプラスの力に変えて、保護猫問題のシステム構築に向けて活動されているツキネコ北海道の皆さん。その裏には、「猫」だけでなく、身近にいる「人」を大切にする深い愛情がありました。

行政を巻き込んだ大きな一歩を踏み出した今こそ、私たち一人一人がもう一度「適正飼育」について考えていきたいですね。

取材・文/南マイコ

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